1-1 ポリシーデザイン
慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科、KMDに在籍する学生向けにポリシーデザインの要点を記します。ポリシーデザインを政策デザインや制度設計と言い換えても同じです。 はじめに、政策対象の現状を認識しましょう。手軽なものとしては、関係省庁の審議会や調査研究会の文書が参考になります。また、情報通信白書や経済白書も参考になります。もちろん、先行研究として学術論文を探すことも重要ですし、インターネットで報道された記事等を確認することも重要です。 次に、経緯を調べる必要があります。今は問題がある政策対象も、以前はうまく事が運んでいた場合がほとんどです。多くの制度は、創設当初は合理的です。情報通信や著作権の分野では、技術進歩や需要変化によって既存の制度が時代にマッチしないものになります。制度がほころび始めたきっかけを探してみましょう。 その上で、比較です。情報通信、著作権などの制度は、いずれも国際条約に基づくグローバルな制度ですし、サービスが国際的な企業により国境を越えて提供されることがしばしばです。各国政府は技術進歩や利用者ニーズに対して、同様の問題や悩みを抱えています。そのため、他国の先進的な取り組みは大いに参考になります。 ここまでの準備を経て、課題抽出 = 問題設定を行います。特定の政策を推進すべきか、転換すべきか、はたまた条件付きで推進すべきかを検討します。利用者利便、格差是正、技術開発、産業振興、国際規格などがメルクマールになります。網羅的である必要は必ずしもありませんが、複数の視点から課題を抽出し、多角的に検討するようにしましょう。なお、現状・経緯・比較と課題抽出=問題設定の焦点がずれているなら、この段階で修正が必要です。 次がポイントとなる解決方策の提示です。法律で解決するのか、予算措置で解決するのか、税制改正で解決するのか、組織設置で解決するのか。もちろん、複数の政策手段の組み合わせが現実的な解決方策でしょう。総理や大臣が声明を出したり、発表したりするアナウンスメントも大きな政策効果を持ちます。 大学院生の発表はややもすると上記で終わりがちです。しかし、もうあと三つ程、検討が求められます。一つ目は、政策の費用対効果です。予算措置にしろ、減税措置にしろ、どれくらいの費用がかかるのか、その効果がいかほどなのかを考慮する必要があります。もちろん、すべての政策を経済効果で推し測ることはできません。その場合も、どのような社会効果があるかを検討し、広い意味での政策の費用対効果を見極めるべきです。 二つ目は、コンセンサスの形成です。その政策に賛成な人、条件付きで賛成な人、反対な人、無関心な人を予測し、より多くの賛同を得るにはどのような対応を要するか検討しましょう。 三つ目は、補償です。政策実施により直接、間接に損害が生じることがあります。損害を被るどの範囲の人々を、どれくらいの期間にわたり、どのように補償すべきかをあらかじめ検討することが肝要です。現実の政策実施では、経験がものを言う場面です。 最後が積み残した課題の洗い出しです。ポリシーデザインとは、制約条件内で政策的効用の最大化を図る技巧(art)です。提示する一つの処方箋で、あらゆる問題の解決が図れるわけではありません。当面の最大懸案事項を解決した上でどのような懸念が残るのか、あるいは中長期的に訪れる課題にどのように備えるのかに付言するのが適当です。 メディアポリシー基礎などのKMDでの講義で、上記の考え方に沿って実際にポリシーデザインを試みてみてください。
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