4-10 リアルプロジェクト10 ネットラジオ
本章の最後はネットラジオについてです。
平成22年12月から、radiko.jpというインターネット・ラジオの商用サービスが提供されています。このサービスの前身となる実証実験は、慶應義塾大学DMC機構のプロジェクトでもありました。ちなみに、DMC機構の活動成果の一つがKMD創設です。平成19、20年度にIPラジオ研究協議会が実施したIPv6マルチキャスト実験では、当時DMCに在籍した中村教授と私が法的環境を整備しました。
このIPv6マルチキャスト実験の特徴は以下のとおりでした。
① 通常のユニキャストでなく、マルチキャスト
② 実際のラジオ放送を受信して行う音声再送信
③ 放送対象地域である大阪府内に限定
④ モニター数も限定
上記①から③を踏まえて、「有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律」に基づき、総務省近畿総合通信局に有線ラジオ放送の届出をしました。有線ラジオ放送の届出と上記①から③の条件により、実演家やレコード製作者から個別に許諾を得る著作権法上の必要はなくなりました。しかし、法的に許諾を得る必要がないからと言って、実演家やレコード製作者の権利を尊重しないのは適切ではありません。IPラジオ研究協議会のメンバーであった(株)電通、在阪ラジオ局が、実験の目的や概要などを権利者や関係者に説明してまわりました。ちなみに、これらに関する詳細を平成19年末の国際公共経済学会で報告し、平成20年の同学会誌で「放送における同時再送信 - IP化とデジタル化の影響 -」として記載しました。
その後、大阪でのIPv6マルチキャスト実験を踏まえて、平成21年末にIPサイマルラジオ協議会がスタートします。ここで、IPラジオ研究協議会のメンバーに加え、あらたに在京のラジオ局が参加することとなりました。IPラジオ研究協議会に続いて、IPサイマルラジオ協議会でも私は幹事として携わりました。
平成22年春からは、IPサイマルラジオ協議会は実用化試験配信を始めました。毎日、数十万のユニークアクセスがありましたので、聴取された方もいらしたと思います。実用化試験配信の特徴は以下のとおりです。IPラジオ研究協議会のそれとは大きく異なります。
① 通常のユニキャスト
② 放送波の再送信でなく、放送とインターネットの同時送信
③ 試験配信当初は、放送対象地域である関東地区(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)、関西地区(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)が聴取エリア
④ モニター数を限定せず
地域に制限があるとは言え、ラジオのインターネット放送が日本ではじめて大規模に実施されました。ポイントとなる権利者の許諾もIPラジオ研究協議会の延長として、比較的スムーズに進みました。8か月半の実用化試験配信を経て、冒頭に記載したとおりradiko.jpは商用サービスとして提供されることとなりました。また、東日本大震災後は岩手県、宮城県、福島県、茨城県の7局のラジオ放送が復興支援プロジェクトとして全国にネット配信されています。
今後は、radiko.jpのアクセスが更に拡大し、メディアとして十分な規模となることを望みます。あわせて、権利者への適正な還元がなされることを望みます。
振り返えれば、平成13年に音楽制作者連盟が現在のradiko.jpと同じ内容のネットラジオを企画しました。十年前に実演家団体が、ネットラジオ・サービスを自ら企画したことは今考えても画期的です。縁あって、私はそのプロジェクトメンバーでした。したがって、足かけ十年、ネットラジオに関係してきたことになります。残念ながら、レコード製作者の団体である日本レコード協会の理解が得られなかったために、実演家団体はまとまったものの、十年前に企画は進みませんでした。ただし、日本レコード協会に所属するレコード会社すべてが、ネットラジオに消極的だったわけではありません。事実、翌年の平成14年にエイベックスグループの最新ヒットを流すエイベックス・ネットラジオが始まりました。運よく、エイベックス・ネットラジオの著作権処理に携わる機会を得たため、個人としては当時の経験をIPラジオ研究協議会実験の法的環境整備に生かすことができました。
エイベックス・ネットラジオがリニューアルした平成18年に、今度はJ-WAVEがBrandnew-Jというネットラジオを始めました。しかし、権利者に十分な許諾を得ないままスタートしたため、とん挫する結果となりました。この時の教訓が、IPラジオ研究協議会の権利者を尊重する姿勢につながったとも考えられます。かような試行錯誤を経て、諸外国同様のネットラジオがradiko.jpにより実用化されましたが、やはり、時間がかかりすぎたというのが偽らざる実感です。技術変化やユーザーニーズを踏まえて、十年前の時点でネットラジオがスタートしていたらと思います。他方、利害が錯綜する事案を産学で実証実験を行い、実用化する枠組みは、日本的解決方法であるとも感じます。その面では、IPラジオ研究協議会の実証実験に慶應義塾大学DMC機構として参加したことは、少なからず意義があったと考えます。
KMDからもradiko.jpのような実用化されるリアルプロジェクトがはじまることを願って、ひとまず本コラムの筆を置きたいと思います。ありがとうございました。
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