2011年7月14日 (木)

4-10 リアルプロジェクト10 ネットラジオ

 本章の最後はネットラジオについてです。

平成2212月から、radiko.jpというインターネット・ラジオの商用サービスが提供されています。このサービスの前身となる実証実験は、慶應義塾大学DMC機構のプロジェクトでもありました。ちなみに、DMC機構の活動成果の一つがKMD創設です。平成1920年度にIPラジオ研究協議会が実施したIPv6マルチキャスト実験では、当時DMCに在籍した中村教授と私が法的環境を整備しました。

 このIPv6マルチキャスト実験の特徴は以下のとおりでした。

 通常のユニキャストでなく、マルチキャスト

 実際のラジオ放送を受信して行う音声再送信

 放送対象地域である大阪府内に限定

 モニター数も限定

上記①から③を踏まえて、「有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律」に基づき、総務省近畿総合通信局に有線ラジオ放送の届出をしました。有線ラジオ放送の届出と上記①から③の条件により、実演家やレコード製作者から個別に許諾を得る著作権法上の必要はなくなりました。しかし、法的に許諾を得る必要がないからと言って、実演家やレコード製作者の権利を尊重しないのは適切ではありません。IPラジオ研究協議会のメンバーであった(株)電通、在阪ラジオ局が、実験の目的や概要などを権利者や関係者に説明してまわりました。ちなみに、これらに関する詳細を平成19年末の国際公共経済学会で報告し、平成20年の同学会誌で「放送における同時再送信 - IP化とデジタル化の影響 -」として記載しました。

 その後、大阪でのIPv6マルチキャスト実験を踏まえて、平成21年末にIPサイマルラジオ協議会がスタートします。ここで、IPラジオ研究協議会のメンバーに加え、あらたに在京のラジオ局が参加することとなりました。IPラジオ研究協議会に続いて、IPサイマルラジオ協議会でも私は幹事として携わりました。

 平成22年春からは、IPサイマルラジオ協議会は実用化試験配信を始めました。毎日、数十万のユニークアクセスがありましたので、聴取された方もいらしたと思います。実用化試験配信の特徴は以下のとおりです。IPラジオ研究協議会のそれとは大きく異なります。

 通常のユニキャスト

 放送波の再送信でなく、放送とインターネットの同時送信

 試験配信当初は、放送対象地域である関東地区(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)、関西地区(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)が聴取エリア

 モニター数を限定せず

地域に制限があるとは言え、ラジオのインターネット放送が日本ではじめて大規模に実施されました。ポイントとなる権利者の許諾もIPラジオ研究協議会の延長として、比較的スムーズに進みました。8か月半の実用化試験配信を経て、冒頭に記載したとおりradiko.jpは商用サービスとして提供されることとなりました。また、東日本大震災後は岩手県、宮城県、福島県、茨城県の7局のラジオ放送が復興支援プロジェクトとして全国にネット配信されています。

今後は、radiko.jpのアクセスが更に拡大し、メディアとして十分な規模となることを望みます。あわせて、権利者への適正な還元がなされることを望みます。

 振り返えれば、平成13年に音楽制作者連盟が現在のradiko.jpと同じ内容のネットラジオを企画しました。十年前に実演家団体が、ネットラジオ・サービスを自ら企画したことは今考えても画期的です。縁あって、私はそのプロジェクトメンバーでした。したがって、足かけ十年、ネットラジオに関係してきたことになります。残念ながら、レコード製作者の団体である日本レコード協会の理解が得られなかったために、実演家団体はまとまったものの、十年前に企画は進みませんでした。ただし、日本レコード協会に所属するレコード会社すべてが、ネットラジオに消極的だったわけではありません。事実、翌年の平成14年にエイベックスグループの最新ヒットを流すエイベックス・ネットラジオが始まりました。運よく、エイベックス・ネットラジオの著作権処理に携わる機会を得たため、個人としては当時の経験をIPラジオ研究協議会実験の法的環境整備に生かすことができました。

エイベックス・ネットラジオがリニューアルした平成18年に、今度はJ-WAVEBrandnew-Jというネットラジオを始めました。しかし、権利者に十分な許諾を得ないままスタートしたため、とん挫する結果となりました。この時の教訓が、IPラジオ研究協議会の権利者を尊重する姿勢につながったとも考えられます。かような試行錯誤を経て、諸外国同様のネットラジオがradiko.jpにより実用化されましたが、やはり、時間がかかりすぎたというのが偽らざる実感です。技術変化やユーザーニーズを踏まえて、十年前の時点でネットラジオがスタートしていたらと思います。他方、利害が錯綜する事案を産学で実証実験を行い、実用化する枠組みは、日本的解決方法であるとも感じます。その面では、IPラジオ研究協議会の実証実験に慶應義塾大学DMC機構として参加したことは、少なからず意義があったと考えます。

KMDからもradiko.jpのような実用化されるリアルプロジェクトがはじまることを願って、ひとまず本コラムの筆を置きたいと思います。ありがとうございました。

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2011年7月12日 (火)

4-9 リアルプロジェクト9 ポリシー・デザイン

 

 本項ではリアルプロジェクトの番外編として、近年、私が携わった制度設計を紹介します。

最初は、平成18年に開催された総務省「通信・放送の在り方に関する懇談会」についてです。懇談会は当時の竹中総務大臣(現慶應義塾大学教授)が開催したもので、座長は東洋大学の松原教授でした。その年から私は東洋大学で講義を持つこととなっており、そんな縁もあって、懇談会関連の勉強会では松原教授をはじめとする懇談会委員と多様な議論を交わすことが出来ました。議論した中では、

・通信・放送の総合的な法体系の見直し

・マスメディア集中排除原則の緩和

・平成22年におけるNTT組織見直し

NHKの番組配信サービス解禁と外国人向けテレビ放送

などが報告書に盛り込まれて、当時の政府・与党合意にも位置づけられました。その後、通信・放送の総合的な法体系の見直しは、専門の調査研究会、審議会を経て、法律改正が行われ、先般、施行されました。政府・与党合意から5年以上が経過したことになります。これほどの期間ではないにしろ、その他の政策も数年単位で順次進められました。かように、制度を変更し、政策を実現するには時間がかかります。この時間軸を頭に入れて進めるのが、ポリシー・デザインの要点の一つです。

ここ数年の情報通信政策は、「通信・放送の在り方に関する懇談会」が打ちだした方向性におおよそ沿ったものと言えるでしょう。情報通信政策ではだいたい十年単位で、その後の政策方向を決定するターニングポイントが訪れます。理由は情報通信の技術や事業が十年くらいで大きく変わるからです。「通信・放送の在り方に関する懇談会」はまさに、その類のターニングポイントでした。その十年前だとNTT再編が、さらに十年前だと通信自由化がターニングポイントでした。ターニングポイントで政策動向は決まりますので、タイミングをとらえた議論が重要になります。

 また、平成20年の総務省情報通信国際戦略局の設置の際には、当時の菅総務大臣が開催した勉強会に参加する機会を得ました。情報通信を国際戦略の要とすべく、新局を設置するとの菅大臣の方針は時機をとらえたものと感じました。その上で、いくつかの意見を申し述べました。そもそも、通信自由化後の情報通信行政は三局体制でした。それが平成13年の省庁再編によって二局体制となり、情報通信国際戦略局の設置により元の三局体制になりました。情報通信社会の進展により、情報通信への行政需要も多様化しており、情報通信国際戦略局の設置は流れに沿った組織変更だったと思います。

 最後に紹介するのは、平成22年の民主党情報通信議員連盟の情報通信八策に関するものです。同年の民主党参院選マニフェストを策定する過程では、情報通信政策の柱を民主党情報通信議員連盟が策定しました。この策定の過程で、情報通信議員連盟事務局長の高井たかし衆議院議員などから意見を求められることがあり、電子政府推進法などに関してコメントしました。電子政府推進法は議員立法での制定が模索されており、その流れを作る過程に参画できたと自分では満足しています。

 上記の三つの機会ともに、政治状況等により、比較的短期間で集中的な議論が交わされました。このような短い時間で中長期的な政策を議論するには、普段から中長期的な政策を検討しておくのが適当です。院生のみなさんも、折に触れて、中長期的な情報通信政策を考えてみてください。政策をデザインすることは、社会をデザインすることです。政策デザインの面白さを感じてみてください。

 

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2011年7月10日 (日)

4-8 リアルプロジェクト8 音楽ビジネス

 本項ではKMDの音楽プロジェクトを簡単に紹介するとともに、ポリシーを少し離れて、私が携わった音楽ビジネスの試みを紹介したいと思います。

 KMDのポリシープロジェクトには現在、トーキョー・シンク・ミュージックというプロジェクトがあります。NPO法人TOKYO TOMORROWと、SYNC MUSIC JAPANの二つの団体に関するプロジェクトです。TOKYO TOMORROWは、音楽を通じて東京を元気にしようという非営利の団体です。SYNC MUSIC JAPANは音楽業界が日本の音楽を世界に発信し、海外市場拡大を目指す活動です。これらにおいて、ウェブサイト制作、国内外ケーブルテレビ番組制作、イベント制作、プロモーションプラン策定などをKMDの院生が担っています。大学院生がプロジェクトのスタッフとなって、アーチストや音楽プロダクションの方々と、リアルにプロジェクトを進められるのは得難い経験でしょう。かたや、二つのプロジェクトともソーシャルメディアを活用する点などで、院生の参加を歓迎しています。ソーシャルネットワークに精通している若い世代が強みを発揮している格好です。

音楽を通じた非営利活動や、海外の音楽市場拡大は近年、急速に志向されています。これは、音楽のビジネスモデルが変化したことと強く関係しています。従来のCDを中心とするパッケージビジネスは、この十年、世界的に縮小を続けてきました。他方、CD市場の落ち込みを補うほどではありませんが、ネット配信は拡大してきました。これによって、レコード会社を中心とした音楽ビジネスは大きな変化を迫られています。同時に、レコード会社に頼らずに、活動の範囲を広げようとの意気込みがアーチストに芽生えてきましたし、国内だけでなく海外市場を新たに開拓するとの方針がプロダクションに生じてきました。TOKYO TOMORROWSYNC MUSIC JAPANはそれらを背景にしています。 

さて、日本最初のレコード会社である日本コロンビアが生まれて、100年が経ちました。私なりにレコード会社の役割を考えてみると、次の7つになります。

1 発掘 アーチストを発掘する。

2 育成 レッスンやトレーニングなどを通じてアーチストを育成する。

3 金融 育成費や制作費をファイナンスする。

4 制作 音源を制作する。

5 宣伝 制作した音源やアーチストを宣伝する。

6 製造 CDをプレスし、ジャケット等を印刷し、商品として整える。

7 流通・販売 卸売や店舗に流通させ、販売する。

 これらの過程を経て、はじめて現実にマネタイズされ、売上が計上されます。このうち、「6製造」と「7流通・販売」は、ネットによる流通で代替可能です。また、「5宣伝」も、アーチストが自らフェースブックやツイッターを利用して、効果的に行うことが可能です。「4制作」もプロトゥールスなどのデスクトップミュージック・ソフトの普及により、アーチストが自宅で制作できる範囲が広がりました。これにともない、工夫次第では15年位前の数割の費用で、原盤制作が可能となりました。また、日本では「1発掘」、「2育成」はレコード会社でなく、音楽プロダクションがこれまでも幅広く担ってきました。そうすると、レコード会社の存在意義は育成費や制作費をファイナンスすることにつきます。このように、ネット流通、デスクトップミュージック普及といったデジタル化により、レコード会社のビジネスモデルは変貌を余儀なくされました。他方、大手レコード会社と別に、アーチストやプロダクションがインディペンデント(独立)にCD流通や音楽配信を行うインディーズが国内外で一般化してきました。

 ところで、平成19年から平成21年までに、私は日本コロムビアのインディーズレーベルの代表を務めました。インディペンデント・コロムビアという名称のレーベルです。といっても、私に音楽制作が出来るわけがないので、契約や予算の管理などのマネジメントが主な業務でした。モデルは、経験豊富なアーチストやプロデューサーとビジネスを進めることにより発掘・育成のリスクを小さくして、さらに権利を持ちあうことにより制作費負担も小さくするものでした。宣伝は、ネットをメインとしました。二年間で50近くのタイトルをリリースすることができ、初期の目標をある程度は達成したと思いますが、新たなビジネスモデルを構築するまでには全く至りませんでした。幸い、インディペンデント・コロムビアの何人かのアーチストとは、現在もCDリリースやライブ制作を一緒に行っているので、ネットを活用した新しいモデルの模索を続けたいと考えています。

 フェースブックなど、学生発のネットサービスは枚挙にいとまがありません。新しいメディアを利用し、生み出すのは国内外を問わず、若い世代です。KMDでも複数の院生が新しいネットサービスを試みてきました。院生のみなさんは、これからも是非、新たなモデルを構築すべく、音楽をはじめとする新しいネットサービスにトライしてみてください。

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2011年7月 8日 (金)

4-7 リアルプロジェクト7 デジタルサイネージ

 地域のリアルプロジェクトの最後として、本項では福岡市などのデジタルサイネージに関する取組みを紹介します。

 岩手、宮城、福島を除く都道府県で今月、アナログ放送が終了します。これにともない、地上アナログ放送の周波数は徐々に別用途に使用されます。この周波数の移行を活用して、福岡市では放送波を通信に利用する取組みを平成20年度から行っています。福岡ユビキタス特区という名称のプロジェクトです。KMDは福岡ユビキタス特区で、IPデータキャストなどの実証実験に携わってきました。関係する教員だけでなく、卒業したKMD一期生が中心となって実証実験を推進してきました。それを背景に、福岡ユビキタス特区と連動するデジタルサイネージのモデル事業を平成21年度に取り組みました。福岡市役所のほか、放送局、広告会社、バス会社、NPOなどからなる協議会が構成されました。

鉄道のデジタルサイネージとしては、山手線のトレインチャンネルが有名です。トレインチャンネルのバス版を福岡市のモデル事業は試みました。デジタルサイネージ端末を搭載したバスが、デジタルサイネージ・コンテンツをのせた電波を受信し、バス前方のディスプレイで表示します。福岡ユビキタス特区の放送波通信利用をバスに応用した格好です。運行情報のほか、イベント情報や行政からのお知らせなどが車内で流れました。無線の強みは、移動している交通機関にリアルタイムで情報を送れることです。緊急情報を走行しているバスのディスプレイに表示することも技術的には可能です。私もデジタルサイネージが搭載されているバスに実際に乗車してみましたが、窓の外の風景を忘れて、ついつい見入りました。

同時期に公共情報をデジタルサイネージで提供し、その効果を検証する事業も実施しました。福岡市は500面のデジタルサイネージが設置されているデジタルサイネージ・シティです。モデル事業では公共施設やバスターミナルなどに設置されているデジタルサイネージを利用して、様々な公共情報を一斉に流してみました。観光、防犯、イベント、市政だよりなどが掲載されたコンテンツでした。利用者アンケートによると、反応は上々でした。特に、若者から高い評価を獲得しました。公共情報は、一人暮らしなどの若者に届かないことがしばしばです。そのような状況を改善するのに、デジタルサイネージは有効であるとの感触を協議会は得ることができました。デジタルサイネージで流れている情報の詳細情報を携帯電話で取得できる点も、若い世代のスタイルと合致するでしょう。

 つづく平成22年には、小型のデジタルサイネージを福岡と釜山の高速船に設置しました。船内のデジタルサイネージによって、両都市の観光情報を日本語と韓国語で見聞きできます。システムとしては、福岡に停泊中の高速船が福岡ユビキタス特区の電波を受信し、デジタルサイネージのコンテンツを更新します。平成21年の実験を応用した内容です。前年の協議会メンバーにさらに船舶サービス会社や新聞社などが加わりました。コンテンツ編成もグルメ情報など非常に工夫された内容です。船舶、バス、街中と切れ目なく訪問者へデジタルサイネージを介して情報を提供し、さらに携帯電話、スマートフォンとデジタサイネージが情報連携することが理想です。デジタルサイネージの先進都市である福岡での実現を期待します。

 また、これまでに札幌市、郡山市、秋葉原、伊東市、静岡市、浜松市などに声をかけていただき、デジタルサイネージ利用による市街地活性化について、検討をする機会を得てきました。自治体、メディア、商工会議所の方々と議論し、意見交換できたことは非常に有意義でした。私見ですが、スポーツチームがある都市では、サポーターが出演するコンテンツなどがデジタルサイネージには相性がよいようです。観光地では多言語対応のデジタルサイネージの需要が高いようです。ツイッターなどと連携をする参加型・投稿型のデジタルサイネージも効果的です。

ところで、KMD開講から昨年度までの三年間、都市メディア政策特論を担当してきました。デジタルサイネージは有力な都市メディアの一つです。上述した放送波の利用など技術的な研究対象になりますし、都市空間のデザインでも、地域活性化のマネジメントや政策でも研究対象になりやすい分野です。これまでも多くの院生が修論のテーマに取り上げてきました。デジタルサイネージに興味のある院生は、是非、修了生の論文に目を通して見てください。

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2011年7月 6日 (水)

4-6 リアルプロジェクト6 防災

 本項では防災に関する二つの地域リアルプロジェクトを紹介します。佐賀県武雄市と岡山県美作市での取組みです。

 武雄市は過去30年で5度、大きな洪水にみまわれました。平均すると6年に一度くらいの割合になります。そのため、関係機関は治水事業等により防災機能の強化に努めてきました。近年では、機能強化の一環として防災情報通信基盤の整備が検討され、平成21年度に武雄市独自のウェブカメラシステムとメール配信システムの導入がなされました。私も国土庁(今の国土交通省)時代に防災行政に関わったことなどから、システムを検討する委員会に参画しました。

 構築したICT防災システムによって、緊急情報や豪雨予報情報が迅速にメール配信されることとなりました。また、災害時に市役所の職員や河川流域の住民により撮影された画像等が位置情報付きでアップロードできるようになりました。構築されたシステムでは位置情報にしたがって、近隣住民の携帯電話に緊急情報をメール配信する設定も可能です。また、保管した画像・映像情報と地理情報システム等とを組み合わせることで災害発生状況のより正確な把握も可能になります。他方、ウェブカメラシステムでは撮影された情報が市役所内設置のサーバーにリアルタイムで送信され、撮影位置情報とともに保管されます。河川氾濫時には、この情報を元に避難勧告等が発令されます。これらのシステムは技術的には決して珍しいものではありません。したがって、ポイントは費用対効果になります。災害時の必要に基づき、システムに盛り込む機能を精査することが重要でして、想定される業務を踏まえた要件定義がなされました。また、他自治体の参考になるようにシステム設計書等は必要に応じて公開することとしています。前項でも少しふれた、地域政策に関する共通な処方箋の一つになることを期待します。

 続いて、岡山県美作市での平成22年度の取組みを紹介します。美作市は平成21年夏に死者が出る規模の集中豪雨にみまわれました。その際、既存システムでは集中豪雨による河川氾濫の予測は不十分でした。これによって、事前に適切な警報発令等の対応ができなかったと美作市役所は分析します。分析に基づき、ハザードマップ(防災地図)を利用した洪水シミュレーションシステムの導入が検討されました。同時に、河川監視画像や災害警報をケーブルテレビなどで配信することとなりました。

 情報のケーブルテレビ配信は回線容量や処理速度を考慮する必要はあるものの、設計が難しいといった類のものではありません。かたや、洪水シミュレーションシステムの構築には多くの課題がありました。シミュレーションのための必要情報の収集、シミュレーション精度の向上、シミュレーション結果の適切な取扱いなどです。必要な情報を収集するにはカメラ等の新設のほか、関係機関からの迅速な情報入手が求められます。シミュレーション精度には、膨大な参考データや電子計算ロジックが求められます。シミュレーション結果の取扱いでは、災害対策本部での利用範囲、誤解を与えない住民への情報提供方法などが議論となりました。美作市役所のほか、岡山県の関係機関、国の関係機関、消防組織、自主防災組織など多くの関係者により、委員会の場で様々な検討がなされました。システム構築を通じて、多様な主体の連携はとても深まりました。大きな副次的成果です。今後、システム稼働を通じて機能・性能がさらに向上することが期待されます。

 KMDは防災分野の情報通信利用について、まだ取組実績が多くありません。デザイン、テクノロジー、マネジメント、ポリシーのどれもが必要とされる分野ですので、是非、ポリシー専攻の学生は関心領域の一つとしてください。都市メディアの防災利用などは、修論テーマたりえると思います。

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2011年7月 4日 (月)

4-5 リアルプロジェクト5 地域医療情報配信

 前項に続き本項では、医療・福祉分野における地域リアルプロジェクトを紹介します。大阪府箕面市と沖縄県中南部における取組です。

 平成21年度に箕面市の地域健康・医療ポータルサイト構築事業と電子カルテ共有化事業に参画しました。利便性・効率性から、電子カルテ共有化などの医療事務情報化は地域の重要な課題です。同じく、医療・福祉分野の啓発活動も重要です。高齢化の進展とともに、医療費は増大し、国や地方公共団体の財政を圧迫しています。医療費を抑制するためには、住民の健康を脅かし、医療費増大につながる生活習慣病を予防することが必要であり、健康や医療に関する正確な知識の提供と地域住民への啓蒙活動が不可欠です。

事業で構築したポータルサイトは、地域情報提供、情報検索機能、個人情報記録の三つの機能から構成されています。一つ目の地域情報は地域の医師へのインタビュー、市役所・市立病院からのお知らせなどのほか、健康レシピや地域トピックなどで構成されます。行政が提供するこの手のサイトは、とかく硬くなりがちですが、「健康タウン箕面」というこのサイトは柔らか目の情報もバランスよく提供されていると感じます。地域のコミュニティFMが編集に携わっているのが、情報のバランスが良い理由でしょう。二つ目の情報検索機能は病院・クリニック検索と薬検索の二つから構成されます。全国的な検索エンジンがカスタマイズされて、検索機能が提供されています。すべてのコンテンツを自前で作らず、必要な機能・情報をカスタマイズするのは費用対効果の高いやり方です。三つ目の個人情報記録は個別にログインして、身体状況や通院履歴などを記録するものです。記録を通じて、日常の健康状態を数値で認識することや、子供の成長を視覚化することが可能になります。健康・医療ポータルサイト構築及び電子カルテ共有化に関する箕面市の協議会では、医師会、地域メディア等の方々と多様な意見を交わしました。個人の調査研究としても、郊外都市が直面する医療・福祉分野の様々な課題を認識することが出来ました。

 平成22年度は沖縄県中南部で医療機関、公共機関などにデジタルサイネージを導入する啓発活動に携わりました。これらの地域では情報提供手段が限られていますが、コミュニティがまだまだしっかりしているなど、郊外都市と異なる背景を有しています。

ところで、沖縄県は長らく長寿の県と言われてきました。しかし、近年、その状況が大きく変化しつつあります。特に、男性の平均余命が短くなっています。原因は、食事のアメリカ化が第二次世界大戦後に進み、半世紀たってメタボが蔓延したためです。事業にあたっては、医療機関、公共機関などにデジタルサイネージを設置し、健康啓発情報を提供して、効果検証を試みました。沖縄県中部の代表的な病院である県立中部病院等にデジタルサイネージを設置し、疾病情報のほか健康啓発情報を配信しました。母数は限られているものの、アンケート結果によれば一定以上の効果が得られました。健康や疾病について考えることが増える病院待合室はデジタルサイネージの設置場所にふさわしいようです。もちろん、デジタルサイネージは情報提供の一手段でしかありません。健康啓発には、紙資料の配布や対面講話も有効です。情報提供手段の一つとして、医療機関等にデジタルサイネージを設置する有効性を地域関係者とプロジェクトを通じて共有しました。

 医療・福祉分野の問題は、身近な地域問題です。身近なだけに問題は具体的です。また、郊外や地方によっても問題の所在は異なります。もちろん、地方をひとくくりに出来るわけはなく、地域ごとに直面する問題も異なります。ただし、具体的な処方箋の共通化は可能です。電子カルテ導入にしろ、情報通信による健康啓発活動にしろ、効果があがった処方箋を集めて、他の地域で応用するのが合理的です。

良い機会ですので、KMD院生のみなさんは、具体的な処方箋としての地域政策を収集する体系的方法を考えてみてください。

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2011年7月 2日 (土)

4-4 リアルプロジェクト4 医療・福祉

本項から4-7項までは地域単位のリアルプロジェクトについて紹介します。

最初は、高知県で実施してきた医療・介護に関するプロジェクトです。医療分野の情報化に関しては、個人では2003年頃から調査をしてきました。ヒアリングのために何度かアメリカ東海岸に行くこともありました。アメリカでのヒアリングに協力して頂いた医師の尽力で、高知県宿毛市の災害時要援護者支援システム構築に平成21年度から携わりました。災害時要援護者とは、障害者、独居老人等高齢者など災害時に地域ぐるみで援護が必要な方々です。これらの方々の情報をデータベース化し、災害時において避難所、病院、施設等でのケアに役立てようというのが災害時要援護者支援システムです。システム化する際に、避難経路、避難場所、援護を担う者等を予め確定したり、避難時に必要となる薬剤をシステムに記録したりします。そもそも、高知県西部は南海地震の発生が懸念される地域ですので、総合的な防災対策としてこのようなICTの活用は重要です。

災害時要援護者支援システムを構築するにあたっては個人情報保護に関して、大きく三つの検討が必要でした。①情報収集にあたっての要援護者の明示的同意、②個人情報保護関連規定の変更可能性、③サーバーの庁舎外設置についてです。これら三つの事項を、行政、福祉関係者、研究機関等からなる協議会で検討し、必要な措置を講じました。

また、高知県は大変高齢化の進んだ地域です。そのため、医療分野だけでなく、介護をはじめとする福祉分野でも業務の高度化・効率化が求められています。上記の災害時要援護者システム構築と同じ時期に、宿毛市内の福祉施設をネットワーク化し、情報共有と業務効率向上を行う事業にも携わりました。事業は介護予防ネットワーク構築事業と呼ばれました。この事業では、既存の社会福祉協議会などが中心となり、福祉施設の情報化を行いました。福祉事務はこれまでほとんどの場合、紙資料でやり取りされていました。そのため、施設入居一つをとっても無駄な手間が生じたり、非効率になったりという状況でした。福祉施設をネットワーク化し、各施設で同じシステムを利用することにより、地域の現場で課題解決に資することができました。成果が上がった理由は、従来から行政や福祉関係者が緊密に連携していたことだと考えます。社会のリアルな関係を基盤に、ICTを導入すると、地域情報化は問題解決に貢献します。今後は、災害時要援護者支援システムと介護予防ネットワークを有機的に結び付け、平時における福祉事業の高度化を図りたいと考えています。基盤となるネットワークとデータベースが整備されれば、高齢者見守りなど様々な分野への応用が可能です。

平成21年度の事業を踏まえて、平成22年度は高知県の須崎市と中土佐町で医療・介護情報の連携事業に取り組みました。事業は、高齢者は医療施設から福祉施設に移ることが多いとの認識に基づき進められました。従来、医療と福祉では制度がそもそも異なるため、医療施設と福祉施設は特段の連携をすることなく、別々に運用されてきました。ところが、高齢化が著しい地域では、近年、医療施設と介護施設を一体的に運用することが広がっています。そのため、高知県では医師等を中心に医療・介護連携の取組みを数年前から進めてきました。平成22年度のプロジェクトでは、医師会、行政、福祉関係者等と議論を重ね、リハビリテーションに関する連絡票を電子化して、システム化しました。平成23年度以降はその運用拡大を目指しています。

ところで、農業を中心とした集落は点在するのが職住近接の点から合理的でした。しかし、医療・福祉サービスを効率的に提供するには点在する集落は不向きです。高齢化が進む地域では、医療・介護施設を中心としたコンパクトな街が一つのモデルでしょう。須崎市や中土佐町はこのモデルに近づいているのではないかと感じます。また、高知県のような高齢化率が高い地域では、都会よりも医療・福祉サービスが効率的に展開されているとの指摘があります。今後は、高齢化率が高い地域で育まれた医療・福祉サービスのノウハウが都市部に拡がっていきそうです。サービスと同じように、医療・福祉連携システムも高齢化率が高い地域でスタートし、都市部へ広がると思われます。なお、既存の土木公共事業と比較して、医療・福祉施設を整備する医療・福祉型公共事業は、地域に持続的な雇用を創出する点が優れています。

医療分野や福祉分野の情報化は緒に着いたばかりです。成果をあせらず、関係者の情報リテラシー向上を図り、徐々に導入の輪を拡大するのが適当だと考えます。地域に実需を踏まえることがポイントでしょう。その上で、市町村単位の情報化をやめて、広域でクラウド化を実現し、システム投資の無駄を排除することが望まれます。

興味を持つ院生がいたら、コンタクトしてください。上記プロジェクトの詳細な資料をお渡しします。

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2011年6月30日 (木)

4-3 リアルプロジェクト3 障害者向け図書館サービス

 本項ではリアルプロジェクトの例として、障害者向け図書館サービスへの研究を紹介します。発端は平成21年に実施された総務省外郭団体による調査研究でした。総務省や国立国会図書館の課室長、立命館大学や静岡県立大学の先生方とともに、視覚や聴覚に障害を持つ大学生・大学院生の研究環境を向上する政策を検討しました。障害者向けの情報通信関連規格に汎用性が不十分なこと、複製については著作権法が障害となっていることなどが検討の場で認識されました。幸いにして二年たった現在では、いずれの問題も改善の方向に進んでいます。ただし、著しい効果があらわれるには至っていません。

 そこで、平成23年に上記メンバーの研究者を中心に、新たな検討を進めることとなりました。運よく、立命館大学の研究ファンドも獲得できました。経済価値のある社会問題ですと利害関係者の問題解決への取組は積極的です。他方、障害者向けのユニバーサルデザイン、ユニバーサルアクセスのような経済価値が高くない社会問題では、取組の重要性は認識されるものの、議論の盛り上がりは大きくありません。

振り返ると、平成22年を電子書籍元年と呼ぶ声もありました。iPadなどのタブレット端末、Kindleなどの電子書籍端末が世界中で急速に普及しました。スマートフォンの普及も電子書籍の普及を後押ししそうです。電子書籍の普及は素晴らしいことですが、それによって技術的には可能となる、デジタル・テキストデータの障害者向け提供は全く進んでいません。もちろん、著作権保護は重要です。既存ビジネスモデルへの配慮も必要でしょう。しかしながら、それらがコピープロテクトを掛ける前のデジタル・テキストデータを障害者向けに提供しない理由にはなりません。デジタル・テキストデータが適正に提供されれば、視覚障害者向けの読み上げ機能や点字ソフト、聴覚障害者向けの手話アプリケーションなどを通じて、障害者が図書に触れる機会は飛躍的に拡大します。わざわざ書籍をOCRで読み込んでテキストデータを電子化する、いわゆる自炊は無用になります。視覚障害者の図書利用では、電子書籍の普及に関係なく、相変わらずこの自炊が主流です。とても残念なことです。

やはり、情報格差を是正するために、視覚障害者や聴覚障害者が適正にデジタル・テキストデータを利用できる環境を早急に整備すべきです。市場にまかせると解決に時間がかかる問題は、政府機関や大学が処方箋を準備するのが適当です。技術動向を勘案して標準化すべき仕様を検討すること、既存ビジネスへの影響を踏まえて法制度を検討することが求められます。技術、法律、経済、福祉などに知見のある専門家が検討を行い、提言をまとめるべき段階です。立命館大学の研究ファンドでスタートしたプロジェクト http://r-iris.jp/ で一定の成果をあげたいと思います。

ところで、KMDは平成22年度に佐賀県武雄市から電子図書館構想の調査研究を請け負いました。武雄市は市役所の大方の職員がツイッターのアカウントを持ったり、小学校にiPadや電子黒板を導入したりと、情報化に積極的な自治体です。電子図書館構想では、自宅のPCや貸し出されたiPadを通じて利用者へ、武雄市立図書館が有する書籍などを武雄市MY図書館として提供しています。http://www.epochal.city.takeo.lg.jp/ 市民の知る権利に資することが構想の目的ですが、既存の図書館を利用することが困難な高齢者等の図書館利用促進や、障害者の図書館利用促進も同時に目的とされています。

有史以来、図書館は地理的制約を受けるものでした。近代でも地理的制約が書籍産業とのバランスになっていました。ところが、電子図書館は距離の制約を取り払います。百年後は世界中で電子図書館は一つになっているかもしれません。しかし、今、現実に地域の図書館が電子化してサービスを提供するには、利用者、書籍、提供方法などを検討して、実現可能な範囲から進める必要があります。武雄市からKMDへの調査では、このあたりを短期、中期、長期に分けて検討しました。ひょっとしたら電子図書館は図書館の在り方そのものを問うているのかもしれません。

音楽配信の普及は、音楽産業の構造を変えました。制作者の自由度が高まったのは良い点でしたが、小売店が減少し、店頭で売れる商品の多様性が減少した点は文化の多様性にとってはマイナスです。同じように、電子書籍の進展により、書店が減少し、文化の多様性が損なわれるおそれはあります。さらに、専門書を出版してきた零細出版社の存続への配慮も必要でしょう。個人的には、社会文化政策の観点から零細出版社の存続は重要だと考えます。この政策的な問題の解決をKMD院生のみなさんも検討してみてください。

最後に余談です。今のところまだ、電子書籍は物理的な書籍の出版とセットになることがほとんどです。しかし今後は、電子書籍のみでしか流通しない書籍が出てきます。ところで、そのようなボーンデジタルの書籍は、書籍と呼べるものなのでしょうか。音楽であればフォーマットに関わらず音楽と認識できます。他方、ウェブで発表されるボーンデジタルの電子データは単なるウェブサイトやアプリとみなせなくはありません。技術が概念そのものを変化させる一つの例でしょう。

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2011年6月28日 (火)

4-2 リアルプロジェクト2 違法音楽配信対策・楽曲アーカイブ構築

 本項では音楽業界と実施してきた二つのリアルプロジェクトを紹介します。

一つ目が違法音楽配信対策についてです。音楽ファイルは映像ファイルと比べて、容量が小さく伝送が容易です。また、CDをはじめとして、音楽は映像よりも早くデジタル化が行われました。その結果、違法な配信もネットワーク化の進展とともに拡大することとなりました。日本レコード協会の試算によると、違法な音楽配信は正規の音楽配信市場と今や同規模だそうです。また、違法な音楽配信を入口に、児童・生徒を出会い系サイトへと誘導しようとするサイトもあります。これらの状況に鑑み、平成21年に総務省で開かれた「青少年のインターネット環境に関する調査研究会」では、違法音楽配信対策ワーキンググループが設立され、私が主査を務めました。調査研究会には著作権や著作隣接権に関する団体、コンテンツに関する団体、通信事業者団体などが参加しました。技術的対策や啓蒙活動についてまとめた調査研究会報告書を受けて、違法音楽配信対策協議会が設立されました。協議会にはレコード協会、JASRAC、携帯電話事業者各社、電気メーカー団体などが参加して、総務省、文化庁、経済産業省等の関係省庁もオブザーバー参加しました。調査研究会の主査を務めたことから、この協議会の会長も私が務めました。

 協議会では、違法音楽ファイルのアップロード、ダウンロードに関する技術的対策や業界横断的な啓蒙活動の在り方が検討されてきました。技術的対策としては、携帯電話端末での対応が模索されてきましたが、スマートフォンの急速な拡大などネットワーク環境の変化を踏まえて、検討を続けているところです。また、サイトの自動探索・収集技術(クローリング技術)を用いて、携帯電話事業者のネットワークから違法音楽配信サイトに関する情報を探索・収集する試みがスタートとしました。業界を異にする権利者団体と携帯電話事業者等とが緊密に連携して、技術的な違法音楽配信対策を講じるのは画期的なことです。このような取り組みが拡大し、適法な音楽配信環境が広がることが期待されます。

 音楽業界とは同じく平成21年から音楽コンテンツを保存・管理するアーカイブに関するプロジェクトも進めてきました。この十年、CDから配信へとビジネスモデルが変化し、音楽産業の構造も大きく変わりました。レコード会社の相対的地位は低下し、同時にインディペンデントな流通が拡大しています。その結果、音源等の音楽コンテンツの保存・管理も従来のレコード会社主体の形から、制作者それぞれが保存・管理する形へと変化してきました。しかし、プロダクション等の制作者が個別にアーカイブすることは効率的ではありませんし、そもそも保存・管理を一元化するアーカイブを個別で構築することが合理的ではありません。そこで、広く業界横断的にアーカイブを構築する試みが、一般社団法人日本音楽制作者連盟を中心に始まりました。技術的な検討に加え、アーカイビングのルール、権利処理への利活用が検討されました。将来の技術変化等も視野に入れた長期的なアーカイブの在り方も検討されました。

検討を踏まえて、平成22年に音楽制作者連盟、JASRAC、通信事業者、放送事業者等がアーカイブ及び二次創作に関する実証実験を行い、アーカイブのガイドラインをまとめました。デザイン、テクノロジー、マネジメント、ポリシーというKMDが掲げる四つの領域が密接に関係しあう実証実験でした。デジタル化やネットワーク化がもたらす問題には、デザイン、テクノロジー、マネジメント、ポリシーなどを有機的に組み合わせて、解決することが求められます。変化が著しいデジタルメディアやデジタルコンテンツではその傾向は顕著です。院生のみなさんは、リアルプロジェクトを通じて問題を解決する有機的な術を学ぶようにしてください。

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2011年6月26日 (日)

4-1 リアルプロジェクト1 デジタルサイネージ、モバイル視聴率

   KMDの特徴はリアルプロジェクトです。院生は理論を学ぶだけでなく、実際にプロジェクトを通じて研究を進め、修士論文をまとめます。本章では、ポリシー分野のリアルプロジェクトについてイメージを持ってもらうべく、KMD院生のみなさんに私がここ数年で携わってきたプロジェクトを紹介します。

 まず、本項では総務省関連の二つのプロジェクトを紹介します。一つ目は、平成21年度に実施した「通信・放送の融合・連携時代におけるデジタルサイネージモデルの確立に向けた実証実験」です。デジタルサイネージとはネットワークに接続したディスプレイなどを使って情報を発信するシステムで、電子看板と訳されたりします。山手線のトレインチャンネルがイメージに浮かぶでしょうか。六本木ヒルズや六本木ミッドタウンなど、大規模商業施設では最近とみにデジタルサイネージを目にします。私は、130以上の企業・団体で構成されるデジタルサイネージコンソーシアムで評議員を務めており、デジタルサイネージのネットワーク高度化や自治体導入を研究テーマの一つにしています。そのような背景から、上記総務省実証実験の推進協議会では会長を務めました。実証実験の背景や目的は次のとおりです。

従来、デジタルサイネージはクローズドなネットワークで利用されることが多く、オープンなネットワーク化は未だ不十分です。そのため、上記実証実験では、通信・放送の融合・連携を踏まえ、普及が進むデジタルサイネージの先進的な利活用に取組みました。技術的な課題である

・多様化する配信方式の比較評価

・多様化な機器・端末への配信インターフェースの統合

・ネットワーク化に対応したコンテンツの配信制御

等について検討して、デジタルサイネージネットワークのプロトタイプを探りました。具体的にはフェムトセル、WiMax、放送波等の様々な伝送路を利用するデジタルサイネージに関して、通信事業者、放送事業者、広告会社などの産学連携協議会が実証実験を行いました。実証実験の成果は、平成22年に沖縄で行われたAPEC電気通信・情報産業大臣会合で、協議会参加企業により展示されました。

 二つ目が平成21年度に実施した「モバイル視聴率調査手法の実現に係る調査研究」です。携帯電話などのモバイル端末で視聴率を調査するにあたって、法制度、技術、ビジネスモデルを検討しました。調査研究の当時、私が広告主、コンテンツプロバイダー等からなる一般社団法人オープンモバイルコンソーシアムの会長をしていた関係から、こちらの調査研究では座長を務めました。こちらの実証実験の背景や目的は次のとおりです。

 インターネット一般についてはウェブサイトの視聴調査は存在しますが、モバイル端末に関しては地上放送の「視聴率」と呼ぶべき調査データや指標が普及していません。この結果、広告主はケータイ等モバイルの広告について客観的データに基づく広告出稿が行えない状況にあると一般社団法人オープンモバイルコンソーシアムは分析しました。また、モバイルでは地上放送のようなサンプル調査でなく、全数型視聴率調査が理論的には可能です。この点でも一般社団法人オープンモバイルコンソーシアムはモバイル視聴率に強い関心を有しました。

調査研究にあたって、法制度面の障壁としては「通信の秘密」、「個人情報保護法」、「プライバシー権」に関するリスクが挙げられ、産学での多角的な検討を行いました。 技術的障壁としては「ログ取得の技術的困難性」、「データ処理の技術的困難性」が挙げられ、データ処理量、計算ロジック、データに含まれる個人情報のクレンジング処理の方法等について、実証実験を通じて、具体的手法を検討しました。ビジネスモデルの障壁としては、広告主が支払う対価、モバイルキャリアのネットワーク増強・改造等にかかるコスト、採算性の担保等を検証しました。調査研究には、広告主、広告会社、通信事業者、法曹関係者、シンクタンクなどが参加しました。

上記の二つのプロジェクトとも、関係者は産学官の多岐にわたり、課題も技術、法制度、ビジネスモデルと広範囲です。多様な主体が参加するプラットフォームを形成し、関係者が一体となり課題解決を図る手法は、ポリシー分野のリアルプロジェクトの代表的なものです。ポリシーを専攻するKMD院生のみなさんも、個別企業や業界団体では解決が易しくない横断的な課題に、研究テーマとして是非、取り組んでみてください

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